着物業界はなぜ衰退したのか。原因と現状、復活のチャンスとは

投稿者: すずき@かなでや運営 投稿日:

日本の伝統的な衣装である「着物」は、今や日本国内に留まらず、海外でも注目されるようになりました。

最近は増え続ける外国人観光客をメディアも取りざたしているので、テレビを観ていると、着物を着て楽しそうにしている外国人の姿を見かけることも珍しくなくなりました。

また、日本人においても、着物にあまり馴染みがない若い世代の人々が、あえて着物をレンタルしたり購入したりして、外出の際に着ることを楽しむ人も出てきました。

そうやって私たちの生活にいま再び出てくる機会の増えてきた着物ですが、着物業界自体は衰退の方向に向かって久しいという現実があるのです。

 

着物業界の現状はこうだ

具体的に着物業界の衰退はどれだけ進んでいるのでしょうか。呉服業界のマーケティングを専門に行う、きものと宝飾社さんの調査から市場売上推移を見てみます。

2018着物市場規模

出典:http://status-marketing.com/20180130-2686.html

2007年には着物市場全体の売上高は約4,700億円あったのですが、10年経った2017年には2,880億円程度まで縮小してしまっています。

一応、2013年あたりから売上高の下げ止まり基調は見られますが、かといって復活しているわけでもなく、依然として厳しい状況に立っています。また、老舗呉服屋と呼ばれる店舗の廃業も留まることがありません。

ここまで急激に衰えてしまった業界はさほど多くありません。

世間の認知度が低い伝統工芸品の場合は、このくらい市場が衰退していることもままあります。しかし、着物はそれらと比べて市場が大きく身近な存在であるにもかかわらず、ここまで衰退してしまいました。

その大きな理由は「海外の洋服文化の流入と、それに対する業界の誤った対処」です。

日本で洋服が普及するにつれて、必然的に着物を着る人は減っていきました。それは仕方がない部分もありますが、その傾向を加速させることになったのが、他ならない着物業界の販売戦略にあったと言えるのです。

 

失敗に終わった着物業界の戦略

我々現代人にとっての着物のイメージは「七五三や結婚式といった行事などで着用する特別な衣装」という感じではないでしょうか?

普段着としてはまず着ることはなく、ハレの場に女性や子供が着用するのがほとんど。若者はそもそも着物を持っておらず、持っている人も普段はタンスの肥やしになってしまっています。

着物は明治時代から洋服が国内に普及しはじめてからも、かなり長いあいだ日常的に着用されていました。

しかし、着物(和服)よりも洋服のほうが着やすく、着心地も良かったこと、また国民の海外に対する憧れも強かったことで、徐々に洋服が覇権を握るようになったのです。

 

着物は日本人に古くから根付いた文化であり、日常的に気軽に着用されてきたものなので、ここまで洋服にシェアを圧倒される状況にはならなかった可能性だって十分にあります。

それにも関わらず、現状のような顛末になったのは、今まで着物業界が選んできた販売戦略に問題点を認めることができます。

そう、実はいま我々が着物に対して抱いている「普段着ではなく、品位のある特別な衣装」というイメージは、業界がそのように着物を洋服と差別化したが故の結果なのです。

 

着物業界のこの方針によって、日常的に着用できるカジュアルな着物は消え、普段着はどんどん洋服に置き換わっていくことになりました。

いわゆる晴れ着のような格式ばったものばかりがプロデュースされるようになり、気軽に着られるものではなく、「大切な一生もの」という価値に転換していったのです。

しかし、それゆえに高価となった着物は、庶民が購入・着用する機会が減っていき、急激にシェアが低下。洋服の攻勢に合わせて、事業が立ち行かず廃業する呉服屋が増えていきました。

そして戦後しばらくすると、「街中では着物をほとんど見かけない」という状況になり、現代に至っています。

 

さらに皮肉なことに、高級路線の立ち位置を取った着物も、現代ではフォーマルな場での利用は決して多くなく、ほとんどがスーツに代替されるようになっています。

スーツは着物に比べて入手しやすく、また日常的に着用する衣服でもあるため、タキシードやモーニングといった高価で格式高い衣装でも受け入れやすいことが、着物のシェアを奪った要因と考えられます。

つまり、一般庶民の日常的な利用を排除した着物業界の戦略が、かえってフォーマル衣装としてのシェアも低下させてしまうという結果に陥ってしまったのです。

 

まとめると、「特別な日の衣装として立ち位置を変えたものの、かえって着物離れは加速し、国民の馴染みも薄れてやがては特別な日の衣装としても選ばれなくなった」ということです。

このようなマーケティング戦略の失敗が、着物業界の衰退を招いた原因と言えます。

 

現代着物業界の問題点

着物は日本を代表する伝統工芸の一つとして、国内の上等な素材と縫製で作り上げられた、まさしく「クールジャパン」と呼ぶにふさわしい製品というイメージを持つ方も少なくないと思います。

ところが現状としては、着物の製造は国外への依存が大きく、素材の生産から一貫して国内で行っている事業者はわずかな割合にすぎないのが実情です。

現代の日本の着物づくりは素材や製造を海外に大きく依存しており、たとえば着物の生産に欠かせない生糸についても、国内の生産量は100年前とは比較にならないほど縮小しています。

いま市場に出回っている着物の多くは、実は海外の生糸で作られているのです。日本を代表する伝統品にもかかわらず、洋服と同じようにその素材や縫製を海外の生産拠点に頼ってしまっているのが現実です。

もちろん、価格帯の手頃な着物であれば、コスト削減のために海外素材や縫製を使うのはしごく当然に思います。しかし問題は、高級路線の着物さえ、伝統的な国内素材・製法を捨てているケースが見られることです。

デパートなどの量販店で販売される着物は、我々庶民には値が張りますが、それらは基本的に海外縫製で仕上げられたものがほとんどです。

せっかく「着物=高級」という路線を主とするのなら、安価な海外製と、上等な国産とをハッキリ区別しなければ、着物のブランドが毀損されてしまいます。コスト減にやっきになり、お高い着物まで海外に生産を頼るのは得策ではないと言えます。

 

また、業績低迷のためか、やたらと着物を押し売りする呉服屋が問題にもなっています。お店に入ったり、着付け教室に来るやいなや、あれこれと高額な着物を無理やり買わせ、ローンまで組ませてしまうというやり方です。

当然ながら全ての会社がこのような商売をしているわけではありませんが、それでも「着物屋は危ない、怖い」というイメージが出来上がるほど問題視されてきました。

先日、倒産ニュースが世間を賑わせた「はれのひ」も、資金繰りの悪化で1年以上も先のレンタル振袖を無理やり販売しまくり、にもかかわらず倒産。「振袖が届かない!」と大量の声が挙がりました。

この他にも、昔ながらの独特な商習慣が市場の健全な競争を阻害しているなど、現状の着物業界は衰退して然るべきカオスな状態になっているという見方が相次いでいます。

 

着物の復活のためには

しかし、復活のチャンスがないわけではありません。日本の文化に関心を持つ外国人が増えて、冒頭で述べたように着物の認知度が世界的に高まりつつあるからです。

また、着物販売の市場が縮小する一方、レンタル市場は成長を続けていたり、安価に購入できる古着の着物やオンラインショップが登場したりすることで、再び着物が「カジュアルな衣装」という立ち位置を部分的に取り戻しつつあります。

着物は「非日常の特別な衣装」から「非日常を楽しめる衣装」へと変化し、SNSを中心に多くの人々へ魅力が発信されることで、国内外の人々に受け入れられるようになってきているのです。

 

これに伴い、近年は従来のスタイルに囚われない画期的な着物がデザインされることも増えてきました。例えば、若者向けに裾を短くしたカジュアルなものや、海外ウケの良い派手で現代的なデザインのものが、ECを中心に取扱が増えてきています。

さらに、ムスリム女性向けにアレンジされた着物風ドレスがインドネシアを中心に展開されはじめたり、X-JAPANのYOSHIKIがプロデュースするアバンギャルドなデザインの着物ドレスが登場したりしています。

また、和装キャラのコスプレも国内外で人気が高まっています。こういった創作モノでは、現実に着られる服とはかけ離れた斬新なデザインのものも多く、こうした形でも着物スタイルが変化して流通していると言えます。

こうして着物は若者や海外へも裾野が広がり、今では浅草や京都などの観光地に行くと、楽しそうに着物を着て歩いている若者や外国人観光客を見かけることも増えました。

カジュアルに楽しく着物を着こなす人を見ると、人は自然と「自分も着てみようかな?」と関心が湧くものです。この連鎖が、再び日本人にも着物への関心を植え付け、慶弔用の着物や普段使いの和装のシェア拡大にも繋がっていくと期待できます。

 

一方、こうした着物スタイルの変化についていけない旧来の呉服屋などは、引き続き厳しい戦いを繰り広げることになるでしょう。彼らは、中間マージンの高い卸売や古い商習慣を捨てて価格の適正化を図りつつ、高級路線なら高級なりの製品と体験を提供していかなければなりません。

カジュアルな衣装としての着物は、イノベーションによって再び息を吹き返し始めていますが、高級路線の着物も、同様に売り方やターゲティングを改める必要があります。

押し売りなど言語道断。スーツスタイルにはない着物独自の歴史や格式、製法や素材のこだわり、流儀作法といった知識や着付けの仕方を丁寧に顧客に伝え、着物の魅力を知ってもらうことで、長い目線で顧客と付き合いながら販売していくべきではないかと考えます。

 

現代の若者はアニメや漫画などの影響もあり、着物に漠然とした興味を持つ人も多いでしょう。しかし、実際に着物に触れる機会もなく、知識もないゆえに、遠い存在として敬遠をしてしまうのです。

ですが、そういった層は十分ターゲットになり得ますし、むしろ取り込んでいかなければ、今後従来顧客層の高齢化が進展し、見込み客が減り続ける取り返しのつかない状況になってしまいます。

着物に馴染みのない若年層や海外顧客には、まずタッチポイントを形成するため、InstagramやTwitter等のSNSで着物の魅力をアピールし、そこから着物の歴史文化を伝える講義や、着付けや茶道、華道の体験や教室などへ誘導をすると良いでしょう。

それにより着物への関心が作られるため、レンタルから始まり、カジュアルな和装の購入、慶弔用のしっかりした着物の購入、と進んでいけるようになります。

従来の「店頭か展示会に呼んで販売する」というスタイルでは、既に顕在化したニーズを持つ少しの顧客に無理やりにでも売る形でないと立ち行きません。

着物業界も、この情報社会に適した新たなスタイルを日々追いかけ、改善していかなければならないのです。外国人市場が伸びている今、着物は追い風。時代に合ったスタイルに適合することで、着物の復活も夢ではないでしょう。

カテゴリー: 工芸品

すずき@かなでや運営

すずきです。かなでやとKanadeCoinの運営やってます。合同会社むすびて代表。 熱い想いやこだわりを持った人、そういった人達が作った製品がすき。

4件のコメント

Hideko Matsumoto · 2018年12月10日 2:25 AM

はじめまして
カナダのモントリオールで着物の店を開けて3年になります。
着物に関しては全くの素人でしたが、海外生活が長く日本文化にいろいろと思い入れがあり、何か文化大使的な役割を担えればとKimono Vintageという店をはじめました。手探りで実験的ですが、店では正統派の着付けとコーディネートを基本に提供しています。着物を部屋着にしたい方、コスプレでコーディネートする方、ドレスにリメイクする方、舞台衣装などにも需要があります。浴衣は安価で楽なので夏はよく売れ、対丈の旅館浴衣も通年人気です。客の95%は非日本人で地元の人(街はコスモポリタンで様々な人種国籍が共存していますが、客はフランス系、イタリア系等のヨーロッパがバックグラウンドの方が多い。)か観光客です。
日本文化が好きな若い世代(20−30代)はオンライン(Ichiroya, Sou Japan, Sakura Kimono Market)で抵抗なく着物や羽織を買っているようです。着物に興味を持っている外国人男性も多いです。最近スマホでSaito Jotaroの着物の写真を見せられ、“こんな着物置いてる?”と聞かれました。
海外から日本の着物業界をみていて感じることは、着物業界もアパレル業界的な再編成が急務ではないのかということです。クオリティーを保ちつつ“カッコイイ”着物つくりをもっと頑張って、正統派の上等な着物は高級ブランド化するとか。
海外のパーティーで日本人女性が一番引き立つのは着物姿です。平均的な日本人は洋服では体系的に西洋人にかないません。着物文化の逆輸入という流れも起こってきて業界に希望的影響があることを祈ってます。
松本英子
KImono Vintage店主 
Facebook@kimonovintagemontreal
Instagram@kimonovintage

    すずき@かなでや運営 · 2018年12月10日 10:38 AM

    松本様
    すずきです。コメントありがとうございます!
    素晴らしい着眼点とお仕事をなさっていますね。海外で直に着物を販売していらっしゃる方の目線は非常に貴重だと思います。

    やはり、海外の方々の着物に対する興味は大きいですよね。私自身もそうなんですが、日本人に対しても、着物とのタッチポイントをちゃんと形成してあげれば、興味があって着用したいという方は多いので、まだまだ着物業界の巻き返しは可能性があると考えています。
    おっしゃる通り、古い呉服業界は商取引も商品づくりも現代人のニーズに適合していないので、日本では観光客向けのレンタルや着付け体験、越境ECでの販売を行っている事業者が代わりに成長している状況です。
    街の呉服屋さんなんかは、ちょっとマーケティング目線を鍛えるだけで大きく状況を変えられると思っています。

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